日本における昔ながらの風習の中でも特に長く根付いているもののひとつとしてお正月の初詣があります。近年では新型コロナウイルス感染拡大の影響から初詣の参拝時期をずらそうといった旨のアナウンスが掛けられている背景からも、元旦のみならず機会があれば参拝に行こうと予定を立てている方もいらっしゃるのではないでしょうか。喪中の場合に初詣や参拝に行ってもよいのか・喪中と忌中で考え方は異なるのかなども含め
今回の記事では、喪中の参拝マナーについて詳しくご紹介致します。
神社とお寺での参拝の違い
一般的に初詣=神社という印象を持っている方が多くいらっしゃるかと思いますが、神社ではなくお寺に行く方も勿論いらっしゃいます。神社に初詣に行く理由としては、氏神様が祀られているところにお参りしご挨拶をするということが挙げられますが、お寺にも仏様が祀られているのでお参りをするという考え方からお寺にお参りする方も増えています。大切なのは、初詣の仕方・お参りの仕方のマナーを守り、神様や仏様に真摯に向き合うことです。お寺の場合は神社への参拝とは異なり忌中・喪中でも足を運んでもいいとされています。それにはきちんとした理由がありますので、詳しくお伝えしていきます。
神道と仏教における死生観や、「死」に対する捉え方には違いがあり、忌中・喪中の初詣の可否はそれが深く関係しています。それでは、神道と仏教における死生観や、「死」に対する捉え方についてみていきましょう。
- 神道における死生観
- 神道では死を「穢れ」と捉え、忌中の間は穢れが残っているとされています。よく混同されがちなのですが、「穢れ」は「汚れ」と同じ読みですが同じ意味の言葉ではありません。穢れは「気枯れ」とも呼ばれていて、大切な方が亡くなり気力を失っている状態等を指すとも言われています。このような状態で、神様のおわす神社にお参りすることは失礼であると考えられていて、穢れが神域や周りの方にも及ぶ可能性もあるということで身を慎むべきだと考えられているのです。加えて、気が枯れている状態でお参りをしても神様にしっかりと向き合えていないので意味がないとも考えられています。このような考え方は、神道における葬儀にも見られます。具体的には、仏教の場合はお参りの対象であるお寺でも葬儀を行えますが、神道の場合は神社では葬儀は行いません。神式の葬儀の場合は葬儀場などがよく使われるのは、こういった死生観からくるものです。
- 仏教における死生観
- 仏教においてはいくつかの宗派がありますから、それぞれで考え方が異ってきます。しかし一般的な考え方としては「亡くなった方は四十九日をかけ旅をして、最後の判決でどこにいくのかが決まる」と捉えています。仏教では、お正月に参拝することを故人や先祖に新年の挨拶をしにいくという捉え方をし、神道とは異なり死は穢れとは捉えません。その為、仏教では信仰施設であるお寺でも葬儀を行うことができますし、忌中・喪中の期間もお寺にお参りしても良いと考えられているのです。(※考え方にある程度差はあります)信仰対象となる仏様はそれぞれの宗派によって異なりますが、一般的なお参りをする分にはあまり分けて捉えられる事はありません。
ただし、在来仏教であり、かつ信者の数が多い浄土真宗では考え方が大きく異なります。浄土真宗は阿弥陀仏を信仰し、ほかの宗派でみられる「四十九日間かけ旅をする」という考え方は持ちません。浄土真宗では、亡くなったらすぐに阿弥陀如来によって極楽に連れていかれるため、追悼供養や喪中、忌中の考え方を必要としないのです。ですからこの期間に初詣に行っても構いませんし、慶事を慎む必要もありません。また、四十九日法要などを営む必要もありません。「しなくても良い」であって、「してはいけない」ではありませんから、気持ちの整理をするというような意味から、四十九日法要を行う場合もあります。
この様に神道と仏教における死生観や死に対する捉え方には違いがあることはご理解頂けましたでしょうか。神道では穢れが残っている忌中の間には神域である神社に詣でる・神棚を拝むことは望ましくないと言われ神社にまつわる慶事も避けた方が良いとされていて、仏教では正月に参拝することを故人や先祖に新年の挨拶をしにいくという捉え方をし、死を穢れとしてとらえる考えはありませんから、忌中であってもお参りすることができるのです。ですから、忌中に初詣をしたいと考えている方はお寺で行うと良いと言えるでしょう。
喪中の初詣と喪中・忌中について
一般的に知られている喪中のイメージでは「晴れがましい事やお祝い事を避けた方が良い」と思われているかと存じます。年末年始に差し掛かると、新年の挨拶を辞退する旨を知らせる喪中はがきを目にしたり、祝い事を控えているなどといった話を聞いたことがあるかもしれません。このように「喪に服すための期間」として認識されている喪中ですが、実際には喪中でも神社・お寺への初詣は可能なのです。ただし注意が必要なのが神社への初詣や参拝に関しては先にお伝えしたような条件付きという点です。まず、そもそもの喪中についてですが、「故人が亡くなった翌年である一周忌(または一周忌法要)までの期間」を指し、本来初詣は慶事である為に喪中や忌中の家庭にはふさわしくない行事とされています。近年では「喪中であっても、忌中にかからないのであれば初詣や参拝をしてもかまわない」という考えをお持ちの方々が多く見られますが、実際には神社やお寺によって考え方には違いがみられるのは勿論の事、地域性や人によっても考え方が異なります。宗教による喪中・忌中の考え方の違いと期間については、
- 仏教
- 喪中期間 一年間
忌中期間 四十九日間
仏教における喪中期間は一年間が基本となります。日本で行われる葬儀の多くが仏式であることもありますし、この考え方は広く知れ渡っています。その為、特段の記載がない限りは仏教の考え方に基づき喪中期間は一年とされることが一般的です。忌中期間は、四十九日とされています。仏教の考え方では、亡くなった方は七日ごとに審判を受け、四十九日目に行くべき場所が決まるとされているため四十九日を一つの区切りとしているのです。現在も多くの人が行っている宗教的儀式である四十九日法要をもって忌明けとされることが基本です。また、仏教の中でも浄土真宗は考え方が異なります。
- 仏教(浄土真宗)
- 喪中期間 存在しない
忌中期間 存在しない
浄土真宗の死生観は、生前の行為に関係なく亡くなった方は誰もがすぐさま阿弥陀如来のお力により極楽浄土にて仏様として生まれ変わるというもので、浄土真宗の教えや死生観に基づくと故人の冥福を祈るという意味の喪中や忌中といった考え方はありません。
- 神式
- 喪中期間 一年間
忌中期間 五十日
かつて神道と仏教は混在していました。その名残から現在でも神道と仏教では通じる部分が非常に多いといえます。仏式と同じで神式の場合も喪中期間は約一年間と考えられています。忌中に関しては少し考え方が異なり、神式の場合は忌中期間を五十日としています。仏教では四十九日法要を営みますが、神式の場合は五十日祭を営み、そこで忌があけたと考えます。
- キリスト教
- 喪中期間 存在しない
忌中期間 存在しない
喪中と忌中の考え方は日本のもので、キリスト教には喪中・忌中という概念が存在しません。ただ、キリスト教の中でもプロテスタントの場合は、「一か月後の召天記念日」カトリックの場合には、「追悼ミサ」をひとつの区切りとするという考え方もあります。キリスト教においては喪中や忌中のしきたりに従う必要はありませんが、反対に絶対に喪中や忌中という概念を持ってはいけないとされているわけでもありません。
このように、宗教によって「いつまでを喪中とするか、いつまでを忌中とするか」には違いがみられますし、故人との関係の深さや考え方によっても、いつまで・どこまで控えるべきかも違ってきます。それぞれの家の考え方や地域性だけでなく、神社・お寺の成り立ちや人の集まり方などによっても慎むべき期間は変わってきます。
喪中の初詣における行動
ここまでは喪中の初詣についてお伝えしてきましたが、普段の初詣と喪中の初詣での行動は違う点があるのかをここからはお伝えしていきたいと思います。まずは「おみくじ」についてです。初詣に行った際には、おみくじを引く方も多いのではないでしょうか。一年の運勢を占い神様仏様からの意見を伺えるおみくじは、初詣の代名詞ともいえますね。このおみくじに関しては、専門家により考え方が多少異なってきます。基本的には「喪中の際は絶対におみくじをひいてはいけない」というような決まりはありません。ただし、厳密に言うと忌中ではなくて喪中ならばおみくじをひいても問題はないが、喪中の来訪を喜ばない神社の場合は避けた方が良いという事です。そもそも、神社の場合は忌中には初詣に行くことがタブーとされていますから、忌中ではなくて喪中ならばおみくじをひいても構わないとされていますので、初詣を受け入れてもらえる=おみくじをひいても良いと考るとよいと言えるでしょう。忌中期間にどうしてもおみくじがひきたいという場合には神社ではなくお寺でひくようにすると良いでしょう。また、喪中の参拝を喜ばない神社ではおみくじをひくのを避けましょう。
おみくじと同様、初詣に行った際に「お守り」を授かる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。願いを叶えるために努力する姿を神様仏様に見守って頂く役割をもつお守りは、喪中の初詣で授けてもらうことには原則として問題はないと考えて良いのですが、忌中の場合にはお守りをお受けすることもできません。ただこの場合には、親戚の方などにお願いをし代わりに受け取ってきてもらうということは出来ます。このように代理を立てお守りを授かることに関しては、多くの神社・お寺で了承しています。神社によっては忌明けに受け取りにきてもらえるようにということで、取り置きをしてくれる場合もあります。神社・お寺によっても多少考え方は異なってきますが、一般的に喪中や忌中だからといってお守りを絶対に受け取れないということはありません。
また、お札やお守りのお焚き上げについてですが、こちらも基本的には忌中ではなく喪中の場合であれば問題はありません。忌中の場合には初詣のときにお焚き上げをしてもらうことはできませんから、親戚の方などに代理をお願いしたり、忌中があけた段階でお焚き上げをお願いするか郵送でお焚き上げをお願いすると良いでしょう。ただし郵送については対応している神社のみに限られますので事前に確認が必要となります。また、別途お焚き上げのための費用が必要になることもありますので併せて確認すると良いでしょう。
喪中の初詣で厄払い(厄除け)については、忌中ではなく喪中期間であれば厄払い(厄除け)をして貰う事が可能です。なお、忌中であっても、厄払い(厄除け)ができないのは神社だけなのでお寺であれば問題なく行うことができます。
最後に、忌中に神社へ参拝してしまったのを後から気付いた場合の対処方法についてお伝えしていきます。例えば会社の方との付き合いなどで忌中にどうしても神社に参拝しなければならないと事前に分かっている場合には、先に神社へ相談をしてお祓いを受けるのが原則です。ただし、うっかり忌中に神社にお参りをしてしまったのを後から気付くという場合もあるでしょう。このような場合には、お祓いなどによって対処してくれることがありますから、お参りをした神社に相談をしてみてください。
喪中だからこれをしてはいけないというような決まりは、「神社には忌中は行ってはいけない」ということくらいです。しかし、中には忌中ではなくても喪中にお参りに行くことに対して難色を示す方もいらっしゃいますから、しっかりとお互いの意見を交換し尊重して行くか行かないかを決めるとよいですね。