葬儀が終わり、ある一定の時期が経過した後に形見分けが行われます。形見分けの事は知っていても実際に形見分けを行うとなった際に、何を気を付ければ良いか、方法はどうするのかまでは知らない方が多いのではないでしょうか。また形見分けをして頂いた際に困ってしまったという経験をされた方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では、形見分けについて詳しくご紹介致します。
形見分けとは
形見分けとは、故人が遺していった愛用品や思い出の品々を近親者や故人と親しかった友人・知人などに受け継ぐことを指し、品物を通し故人の思い出を共有するために行います。形見分けは文字通り「形を見る」という意味から生まれた言葉で故人の遺した品々を見て故人(形)を思い出すという意味から「形見」と呼ばれるようになりました。本来は肌に直接纏うものに魂が宿るという日本古来の考え方から故人の魂が宿った衣類を近親者で分け合うという意味合いから形見分けをしていました。近年よりも豊かではなかった時代の形見分けにおいては貴重な衣類は財産としての意味もあり、その名残から形見分けを「すそわけ」や「そでわけ」と呼んでいる地域もあります。近年では衣類だけに限らず、愛用品や思い出の品々など故人ゆかりの物を分け合うことが主流になっていますが、高価すぎる物は贈与税の対象になってしまいますので注意が必要です。
形見分けする遺品は、先に述べた通り贈与税がかかる様な物は受け取り手の負担になる場合がありますのであまりに高価なものを避ければ基本的には何でも構いません。具体的によく形見分けをされる品として、着物や洋服等の衣類や、鞄や時計等の小物類、宝石や貴金属等のアクセサリー類、書籍や文具等の愛用品類、その他にコレクションしていた物や楽器、家具など人によって様々です。誰に何を渡すのかは難しく悩ましい問題ですが、遺言状やエンディングノートにその記載があれば故人の意思を優先し、遺品整理をする段階で形見分けする品物の一覧等を作っておくと間違いや勘違いなどの思わぬトラブルを事前に防ぐ事が出来るのでお勧め致します。
また形見分けのマナーとして、本来の形見分けでは「親から子・上司から部下」などの目上の者が目下の者へ贈る事とされていますので、反対に目下の人から目上の人へ贈る事は失礼だとされています。しかし近年では、上下関係や年齢を気にしない方も多くなっているので、贈りたいと思う相手の考えや性格を考慮することは勿論、無礼を詫びる一言を添えてから贈るようにすると安心でしょう。目上の方から直接に形見分けの要望があった場合には、失礼になるからといって断る必要はありません。また、一般的な常識ですが壊れていて使えない品物や、贈られる方の好みに合わない品物を贈る事はしません。ですから遺品をクリーニングやメンテナンスしてから渡すのが一般的ですがプレゼントではありませんので、形見分けとして贈るものに包装やラッピングなどは不要です。そのまま渡す事に抵抗がありどうしても包装したい場合には、半紙のような白い紙や無地の紙など華美にならない様に包み、仏式なら「遺品」神式なら「偲ぶ草」と表書きして渡します。基本的に形見分けは手渡しが良いとされていますが、遠方で手渡しできない場合などには、壊れ物は破損しない様に、衣類等であれば水濡れしない様になど最低限の包装を行い宅配便等で送っても問題はありません。その場合は、形見分けである旨を一筆必ず添えるようにしましょう。
形見分けの時期
形見分けは一般的には四十九日法要などの宗教儀式に合わせて行うのが良いとされています。その為、葬儀を行う宗教によって形見分けを行う時期は違ってきます。まずは仏教での形見分けについてお伝えします。仏式ではお葬式の後に、初七日・二七日といったように七日ごとに法要を行い、その中の七回目の法要にあたる四十九日は故人が仏様の元へ向われる忌明けとなりますので、四十九日以降にお見送りの意味も兼ねて形見分けを行われています。ただし、地域や宗教によって忌明けが三十五日法要としている場合もありますので、実際の場合に合わせる様にすると良いでしょう。
次に神道での形見分けについてです。神式では葬儀の翌日に翌日祭を行った後に、十日祭・二十日祭といったように十日ごとに霊祭を行い、その中の三十日祭・五十日祭が忌明けにあたり形見分けを行います。
最後にキリスト教(カトリック)での形見分けについてですが、キリスト教では形見分けというしきたりや習慣はありませんが、日本においては形見分けを行う事が多く、その場合には三日目・七日目・三十日目の追悼ミサの際に形見分けを行うのが一般的になります。
形見分けを受け取る側
形見分けを受け取る側のマナーとしてはご遺族から形見分けのお申し出を頂いた場合には受けるのがマナーです。ですが、どうしても受け取れない理由や事情がある場合には丁寧にお断りするのもひとつの方法ですが、ご遺族の気持ちや故人のことを想うと可能な限り受け取るべきと言えます。また譲り受けた遺品を大切に使用する事が故人の供養となりますので、第三者に譲ったり現金化したりする事は避けましょう。
形見分けの中にも、生きている間に親しい方へ愛用品を贈る「生前形見分け」というものがあります。生前形見分けは、贈る人が自分で誰に何を贈るかを決められる上、贈られる人も贈る人に意見や考えを言う機会を設けられることも多く比較的好みの物を選べる為、双方にメリットがある方法と言えます。ただし、生前に口頭で約束しただけでは死後の形見分けでトラブルになる可能性が高くなりますので、可能な限り遺書に記して頂くようにした方が良いです。生前に品物を受け取る場合にも、贈与税が課せられる可能性がありますので品物の価値に注意が必要です。
中には形見分けをお金でする場合もあるかもしれません。しかし、現金では形見分けの本来の意味をなしませんので、丁寧にお断りする事も可能ですが、受け取る場合は故人を思い出せるように形に残る品物を購入するのが良いでしょう。
形見分けしていただいたものを処分したいと思った際には困ってしまう方が多いと思いますが、受け取った形見分けの品物を処分するという事は基本的には良いといえる行為ではありませんし、先に不要になる事を分かっていたのであれば丁寧に断るのが礼儀です。しかし、受け取ってすぐの事ではなく、中には後々に処分しなければならない場合もあるかもしれません。そんな場合に最も気分的にも苦がなく処分ができるのは、「お炊き上げ」でしょう。お炊き上げは、お寺や神社などで品物に宿った魂を抜いた後に燃やしてその品物を丁寧に浄化・供養する儀式ですので、故人にとっても最も良い方法でしょう。葬儀を行った宗教や宗派を確認し、同じ宗派のお寺や神社などでお炊き上げを行って貰えば普通に個人で処分するよりも気持ちが安らぎます。ただし品物を燃やす事になるので品物の材質などによっては受け付けてもらえない場合もありますので必ず寺社に確認してから持ち込むようにしましょう。
最後に、形見分けのお礼が必要なのかという点ですが、形見分けに対してのお礼は基本的には不要です。形見分けは、その品物を大切に使い故人を偲びいつまでも忘れないという事が最大のお礼となりますので、お礼の品は勿論の事、お礼の手紙も必ずしも送る必要はありません。